昨年、自分にとって大きな発見だったのが「キャンプって楽しい!」ってことでした。同意してくれる人も多いですが、「硬い床で寝るのがいいの?」「寒いかったり虫出たり、家の方が快適なのになんでわざわざ?」って聞かれることもあります。確かにそう言われるとそうなんです・・・。質問に対して納得のいく回答ができないなと思っていた時に、偶然この本の存在を知りました。キャンプを楽しいと感じ、頻繁にキャンプに行きたくなる理由がよくわかった以外にも、色んな学びがありました。この本のおすすめポイントを5点ご紹介します!
1 .様々な角度から「自然の力」を考察している
夏には海や川、冬には雪山など都会を離れて「自然」の中で思い切り遊ぶと、気分がいい、爽快し、疲れすらも気持ちがいい、ってことは多くの方が体感したことがあるのではないでしょうか?でもそれって、休暇であり非日常なんだから当然なのでは?気心知れた友人たちと過ごしてるんだから楽しいに決まっているでしょう?って言われると「確かに・・・」とも思いますよね。
「自然」そのものの効果は科学的にはどれほどのことが明らかになっているのか?そもそも科学的に証明することができるのか?この本の著者である米国のジャーナリストFlorence William氏は、「自然の力」を、信仰・経験・感覚的、いわゆる「スピリチュアル」ではない視点で追求しようとします。自然と脳、自然と健康に関する研究の専門家たちに話を聞き、文献を読み漁り、実際に最前線の実験にも参加したりしながら冷静で俯瞰的、論理的な立場で「自然の力」を本書で紹介しています。
日本・韓国・フィンランド・アメリカ・スコットランド・スウェーデン・シンガポールなど、様々な国に出向き、時には少々穿った目を持って実験やセラピーに参加しています。目的と導きたい答えを知った上で実験に参加しているので、どうしても穿ってしまうのですが、そんな自分の心境をも冗談混じりで書き綴っています。
2. 日本が最先端を行く”Shinrinyoku(森林浴)”について知れる
冒頭で取り上げられるのは日本の研究です。自然と健康の関係、特に森林浴の効果について広く引用されているのが、本書の日本語版解説も手がけている千葉大学の宮崎良文教授による研究です。森の中をゆっくりと散策すると、都会を歩いているときに比べて、「ストレスホルモン」とも呼ばれているコルチゾールの値が16%も下がったというもの。さらに「闘争と逃走の神経」とも言われる交感神経の活動や、興奮・緊張状態になると高まる血圧や心拍数も顕著に下がったとのことです。
他にも宮崎教授の研究の成果として、「生体調整効果」が挙げられています。15分間、森林中を歩いた前後で血圧の変化を計測したところ、もともと血圧の高い人は低下し、低い人は上昇することがわかったというのです。同じ人が都市部を歩いたり座ったりした場合には、このような効果は認められていません。
こうした実験結果として生まれたのが「森林セラピー」で、現在では日本全国に63ヶ所、癒しの効果・病気の予防効果が科学的に認められたお墨付きの森「森林セラピー基地」と「セラピーロード」があるそうです。
2006年から認定がスタートしておるそうですが、知らなかったのでGoogleでさらに検索したら、出てきました→https://www.fo-society.jp/
暖かくなったらこれらの基地やロードに出かけて見たいと思いました。
「シンリンヨク」という言葉がそのまま海外でも使われるほど、この分野の研究で最先端なのが日本であることが嬉しかったです。ただ、「『カロウシ』(過労死)や『ツウキンジゴク』(通勤地獄)という世界共通語を生み出した日本には必要だしね」っという著者の感想が刺さります・・・
3. 「フラクタル」という新しい学び
この本で唯一文章から理解するのが難しかったのがこの「フラクタル」なのですが、具体例をみるとわかると思いますので、まずはフラクタルの例を載せます:海岸線とロマネスコです。
説明では、フラクタルとは「図形の部分と全体が自己相似(再帰)になっているもの」となります。一般的な図形はどんなに複雑に入り組んだ形状をしていても、拡大するに従ってその細部は変化が少なくなり、滑らかな形状になっていきます。これに対して自然に存在する、例えば上の海岸線やロマネスコなどは、どれだけ拡大しても同じように複雑に入り組んだ形状が現れます。こいう図形がフラクタルであり、リラックスつながるというのです。
ナノ物理学者のリチャード・テイラー氏による視線測定器を用いた実験で、被験者の瞳孔が画像のどのあたりに向けられているかを調べたところ、瞳孔が動くパターンそのものがフラクタルであることがわかりました。自然の中に身を置いていると心地よいのは、神秘的だからというよりも、視覚がスムーズに情報を処理できるからなのかもしれないというのです。こうしたフラクタルのパターンは、ふと見かけた環境のなかに溶け込んで存在するだけでよく、じっと見つめる必要はないというのは面白いですね。
4. 自然の力を活用したセラピーや国家施策にも言及
著者は「自然の力」に関する研究だけでなく、すでにこの「自然の力」を活用している側にも、取材を重ねています。PTSDに苦しむアメリカの帰還兵を対象にした川下り合宿や、国をあげて緑地の増加を進めてきたシンガポールの取り組み、子供のADHD(注意欠陥多動性障害)を緩和するためのサマーキャンプ、スコットランドの森の幼稚園など。
この分野は研究だけに終わらず、すでに実践が進み、実績をあげているという話を読むと、やはり人間に自然は欠かせないのだなとさらに納得します。
5. 具体策を提示している!
「でも都会に住んでいるとどうしても自然は遠い・・・」「インドア派なので・・・」と思われた方、心配ご無用です。複数の研究をもとに著者が提示する基準は、1ヶ月に5時間。あくまで研究者が算出した平均値に過ぎず、個人差も当然あると思いますが、それを踏まえた上での、月に5時間です。30分を週に2、3回。もしくは月に1度、半日ほど。しかも、遠出する必要もありません。
もちろん定期的に大自然に囲まれるのがベストですが、週に1、2度公園に行ったり、あえて木立の下を歩くようにしたり、樹木や水辺を眺めるようにしたりと、無理なく行動することが推奨されています。
本書を読んだ後には、身近な自然に前よりも気が向くようになります。自宅や職場の周りをあらためて見回すと、意識してなかっただけで、意外とスポットはあります。私もいつも行く公園を今まで以上にありがたく感じるようになりましたし、もっと色んな自然に触れたいとも思うようになりました。
取り上げられる研究は大変興味深く、ユーモア溢れる楽しい語り口で書かれていて読むのが面白い1冊です。
インドア派にもアウトドア派にもオススメの1冊です。