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FitなBOOK”土と内臓”


自然食品を取り扱い、持続可能な生産体制や食料の確保などについても考える機会が多くなってから、つくづく人間は地球の一部、大自然のシステムを動かす一員であることに責任感と同時に嬉しさも感じるようになっていた昨今、Amazonの「あなたへのおすすめ」で表示されてこの本に出会いました。タイトルと挿絵にものすごい興味を惹かれ、購入し読んでみたら、予想通りの素晴らしい内容でした!多くの方にぜひ読んでみていただきたく、Fit(=いい感じ)な本としてここでご紹介させていただきます。

微生物の活躍を読み解く!

本の内容(結論)としてはタイトル通り、植物が根を下ろし、生きていくのに欠かせない栄養分を取り込む「土」と、私たちが食べたものを紹介・吸収する「内臓(主に腸)」が似ていますね!というもの。

「腸内フローラ」として知られる微生物の働きは注目されていますが、実は植物も土の中で微生物の力を借りながら栄養を得たり、外敵から身を守っているー。植物も動物も微生物なくしては存在し得ない、まさに微生物が世界を作っていると言っても過言ではないのです。

と、ネタバレしてしまっていますよと言われるかもしれませんが、この結論に関してはそんなに真新しいものではないと思います。「腸内フローラ」という言葉はそろそろ流行語に選ばれるのではないのかと思うくらい知れ渡った言葉ですし、微生物が作り出す発酵食品が体にいいという考えも浸透しています。また、特に海外で増えている有機栽培も、土の中の微生物を活用したものです。微生物が絶大なパワーを持っていて活用するべきだという動きは世界的に広まっているのです。

それでもこの本をぜひ読んでいただきたいのは、その結論に至るまでの過程が非常に興味深く書かれているからで、この過程が、結論と同じくらい重要で示唆に富んでいるのです。

専門的な解説だけでなく、歴史や著者の実体験も紹介されていて物語的に読めます

上記の通り、今では微生物が私たちの健康・生活に密接に関わっているということは周知の事実。でも、本の英文のタイトル”The Hidden Half of Nature”(自然の隠れた半分)とある通り、この微生物は目には見えません。目には見えないけれども、地球には10の30乗個(100穣個)いると推定されています。全部つなげると1億光年の長さ、既知の宇宙にある星の数の100万倍多く、重さでも、地球上に住む生物の重さの半分を占めると言います。(このように、誰にでもイメージしやすい言葉で解説してくれるところもこの本の魅力です)

そンなに数が多くても、、、、目に見えません。本では人間が、目には見えないものの存在に気づき、この見えないものが時には恐ろしく、時には有用なパワーを発揮するということを受け入れるまでの歴史や葛藤も紹介されています。

最も印象に残ったのは、1840年代、「手洗い」を推進したハンガリーのセンメルワイス医師(イラスト)の話。センメルワイス医師は3人に1人もの割合で産婦が生殖器の感染症で亡くなるのは、医師が手を洗わずに次々と患者の間を回ったり、検死解剖の後にそのまま生きた患者を診たりしているのと関係があるのではと考えました。その理由はわからないものの、診察前に白衣を着替え、手を消毒洗浄するべきと主張した結果、彼が勤務していた病棟では死亡率が90%も低下しました。それでも、衛生状態を批判された病院側は激怒し、センメルワイス医師を解雇してしまいました。その後勤務した病院でも、センメルワイス医師は手洗いの重要性を説きながら感染症を鎮火させましたが、それでも同様に医学界の逆鱗に触れ、批判されました。ついにセンメルワイス医師はうつ病を患い、1865年、精神病院で亡くなってしまいます。旧来の通説やパラダイムに反する新しい知識への手のつけられない拒絶を、哲学者は「センメルワイス反射」と呼んでいるそうです。ちょうどこの頃から先駆的な微生物学者たちに、人間の病気を起こすのは微生物であることが間違いないとに証明され始め、フランスの生化学者パスツール氏が「センメルワイスが消し去ろうとしていた殺し屋とは連鎖球菌である」と発表したのは1889年、センメルワイス医師の死後20年以上たってからでした。センメルワイス先生・・・。

この本の著者夫妻は実は微生物学者ではなく、夫は地質学者で妻は生物学者。2人とも、もともと微生物に詳しいわけではありません。微生物に興味を持つようになったのは、やせた自宅の庭の土をなんとか蘇らせようと試行錯誤した経験から。コーヒーかすなどの有機物の堆肥を与えると、それが手品のように消え、代わりに土は濃く肥沃になっていき、虫やキノコなどの生命がやってきて、植物が育ち、そしてその植物を食する自分たちの姿を目の当たりにして、感銘を受けました。ガーデニングを通して、土の中に住む、見えないけれども全ての生命を支えている存在に興味を示すようになったのです。この後、妻のアンさんや飼い犬の病気の話もありますが、ガーデニングで微生物のパワーに感銘を受けている2人は、病気にも微生物目線で対処しようとします。

「100聞は1見に如かず」と言いますが、人間は何かを体験しないと納得できない、未知を認められないんだなと思いました。センメルワイス医師の同僚たちもガーデニング経験があれば、彼を批判せず、医師はうつ病でなくなることもなかったのかな・・・微生物の魅力とともに、人間の性についても考えさせられます。

健康的な食事についての解説がわかりやすい!食事を変えてみようというモチベーションに!

そしてこの本で面白かったのは、腸内微生物と肥満の関係の解説。中国の微生物学者趙立平の研究が紹介されています。趙氏は、肥満は二つの要因の組み合わせー①高脂肪の食事 と②腸内細菌が生成して血中を循環している内毒素 ーと結論づけています。②については、腸内の微生物に嫌いなものをあげると、怒って毒を生成しそれを撒き散らすため太ると私は理解しました。「これはもう、腸内微生物が好きなものをあげなきゃ!」と、ここから顔と本の距離が近くなった気がします。趙氏が証明した腸内微生物の好む食事は「WTPダイエット」と呼ばれます。W=Whole grain(全粒穀物)、T=Traditional foods(伝統食品)、P=Prebiotics(プレバイオティクス)です。趙氏が実験で使用して効果が実証されたのは、W=ハト麦、ソバ、オーツ麦、T=ニガウリ、P=ペクチン、オリゴ糖。これらがなぜいいのかはぜひ本で読んで確認してください。(*写真は自分をテストにした趙氏の実験前と後)

オーツ麦やオリゴ糖は、Fitness in Lifeで取り扱っている商品に含まれているものなので、やっぱりいいものなんだなと実感したと同時に、すぐにヨーグルトメーカーを購入しました!素晴らしい微生物たちの力をもっと借りたい!と思ったのと、私の腸内にいる微生物ちゃんたちにパワーアップしてもらわなきゃと思ったのですw

すぐに行動に移したくなるほど説得させられましたので、健康な体作りや体重のコントロールを目指している方、何か本を読むならこれが一番だと思います!

考察に富んだ締め!

最後は昨今悪者扱いされる穀物について、パレオやヴィーガンなどの食事方法について、抗生物質や化学肥料など微生物を殺すものの恩恵と被害についてなど、持続可能性や環境保護などの観点から議論されることの多いトピックについて著者なりの考察がされています。著者は何かを絶対的に推したり、否定することはしません。著者が明記しているわけではありませんが、全ては程度の問題だと言いたいのだと思います。「腸内フローラのバランスを・・・」という記述をよく見かけますが、私たちは常にバランスの中で生きているのです。

そして、考えなければいけないのは「何のため」なのか。「何を食べるかを考えるとき、自分が本当は何のために食べているのか、それは自分が食べたもので何をするのかを意識したほうがいい」という1行が印象的でした。○○ダイエット、糖質カット、オーガニック、、、、耳当たりのいい言葉はたくさん聞こえてきますが、やはり本質的に考えて食事を選んでいくのが正解ですね。食品を取り扱う業者としても改めて「何のために」を意識していこうと思いました。

 

土と内臓

**【書籍詳細】出版社(築地書館)より**

土と内臓 微生物がつくる世界」

デイビッド・モントゴメリー+アン・ビクレー [著] 片岡 夏実 [訳]
2,700円+税 四六判上製 392頁 2016年11月刊行 ISBN978-4-8067-1524-5

肥満、アレルギー、コメ、ジャガイモ――
みんな微生物が作り出していた!
植物の根と、人の内臓は、豊かな微生物生態圏の中で、
同じ働き方をしている。

マイクロバイオーム研究で解き明かされた人体での驚くべき微生物の働きと、
土壌根圏での微生物相の働きによる豊かな農業とガーデニング。
農地と私たちの内臓にすむ微生物への、医学、農学による無差別攻撃の正当性を疑い、
地質学者と生物学者が微生物研究と人間の歴史を振り返る。
微生物理解によって、たべもの、医療、私達自身の体への見方が変わる本。

2019/7/6(土)朝日新聞読書欄「売れてる本」でも紹介されました。

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